るんるん書評

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ソナタ形式の文学『トーニオ・クレーガー』 ー孤独と嫉妬ー

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どんな話?

トーマス・マンの『トーニオ・クレーガー 他一篇』を読みました。
青春小説として語られることが多い小説です。

主人公は本の題名の通り、「トーニオ・クレーガー」です。
トーニオのなかに、著者トーマス・マンは自身の若いころを重ね見ていて、自伝的な要素も強いと、マンは認めています。

トーニオは芸術家なのですが、芸術家であるがための孤独居場所のなさ嫉妬憧れを持っています。これらの感情は芸術家でなくとも誰でも持ちうる、もしくは持った経験がある感情ですが、芸術家の方は特に近い心情を持つことでしょう。

普通の市民からは冷ややかな目で見られる(?)存在であった芸術家の心のうちが繊細に描かれています。

ソナタ形式で読む『トーニオ・クレーガー』

この作品は大きく分けて3つの場面に分けられると思います。その構成が音楽で言うところのソナタ形式だと言われているのです。ソナタ形式の基本構造は「提示部」「展開部」「再現部」の3つの部分から成っています。分かりやすく言い換えると、「設定」「葛藤」「解決」です。

「提示部」

始めの「提示部」「設定」は、主人公の少年時代に当たります。

主人公トーニオは周りの子と自分が趣味や見た目が違うことで、孤独に苦しんだり、リア充の知り合いに憧憬嫉妬しながら少年期を過ごします。

「展開部」

「展開部」「葛藤」は青年時代に該当します。

トーニオは自堕落で破滅的な生活を送りながらも、芸術家としては研ぎ澄まされ、人々にも認められるようになりました。自分は凡人ではなく特別で、芸術のために私生活を犠牲にする自分、に酔ったナルシスト的な一面もトーニオは持つようになります。逆に芸術家気取りの一般人が暮らしを幸せに送りながら、芸術も楽しく嗜むことが許せず、彼らを軽蔑するようになります。

自分は素晴らしい芸術家であるが、人間としては貧しいと感じていて、すべてを見下してはいるものの「平凡な人」になりたくて、「平凡」に憧れて生きていきます。

「再現部」

「再現部」「解決」はトーニオが自分の過去と向き合おうと旅に出る場面です。
トーニオは自分もまた「平凡」を愛し、「平凡」な人間であることを悟り、芸術家として改めて生きていくことを決心します。そして提示部の表現を繰り返して、この物語は閉じられます。

この話の文章中には対句的な表現繰り返し表現がいくつか見られて、トーマス・マンが丹念に構成を練ったことが想像できます。

まとめ

フランツ・カフカ三島由紀夫も影響を受けたといわれる『トーニオ・クレーガー』。
芸術家だけでなく、誰にでも共通する悩みを抱えた主人公が回り道しながらも、自分を見つめなおし、成長を遂げる様が魅力的です!

『マーリオと魔術師』

この物語は河出文庫の『トーニオ・クレーガー 他一篇』の他一篇です。

どんな話?

主人公の一家はチッポラという不気味で怪しげな魔術師(実際には催眠術師)のショーを訪れる。人々を煽動するチッポラの詭弁、強弁とも言えるが巧みな弁舌、異常なほどゆるぎない自信に、聴衆は心をつかまれて彼の指示に服従するようになります。

風刺的な物語

消極的で権力に流されやすい人々積極的で具体的な行動を起こそうしない人々に対する風刺とも感らじれる物語でメッセージ性の強いものです。

当時のイタリアやドイツのファシズムへの痛烈な批判としても捉えられることも多い話ですが、「サイレント・マジョリティ」と揶揄されることもあり、消極的だとも見られる現代の人々にとってもショックな内容だと思います。生きるということは、何かを自らの意思で「しようとする」ことであると教えてくれる話です。

まとめ

本編の『トーニオ・クレーガー』よりも読みやすく理解しやすいかもしれないので、こちらの話も是非読んでみてください。

https://www.amazon.co.jp/トーニオ・クレーガー-他一篇-河出文庫-トーマス・マン/dp/4309463495