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就活の小説『何者』 ー性格から考えられる主人公の心情ー

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どんな話?

朝井リョウさんの『何者』を読みました。
この小説は、5人の就活生がそれぞれ就活に励む様を描いたものです。

主人公の二宮拓人は就活中の学生です。
拓人は周りの人の細かなところまでよく見ていて、普段から心のなかで周りの人々を分析したり批評したりしていました。しかし本人に直接悪口を言ったりせず、本心は決して語りません。

ですが、実は拓人はSNS裏アカウントで、友達や就活仲間のことを批判しているツイートを投稿しているのです。

就活を進めていく中で、拓人は物事を冷静に観察できていて、他の就活生より余裕があると優越感自負心に浸っていました。

しかし、いつも見下している周りの就活仲間が少しずつ内定をもらうなかで、拓人はなかなか内定が出ません。拓人にはそれがなぜなのか分からないまま就職活動は終盤戦へと突入します。

そして話の終盤で、ともに就活に励んできた就活仲間から、拓人の裏アカウントの存在に気づいていることを告白されて、他人の粗ばかりを探して、批評しているが、自分自身とは向き合えていないことを指摘されてしまいます。

そのことに気づかされた拓人が改めて就活に挑む場面で物語は終わります。

主人公の性格から考えられる心情

自分が正しいと思いたい拓人

拓人は就職活動を本格的に始めるまでは舞台活動をしていました。相棒であった演劇仲間はそのまま演劇の道に進むことを志し、一方で拓人は舞台を引退します。

元相棒は人気がないながらも舞台の公演を続けます。拓人はその舞台がネット上で酷評を受けていることを見て満足する、といった場面があります。拓人は演劇という自分の道を突き進む元相棒の行動力を認めており、また自分は演劇の道に進む覚悟がなかったことを自覚していると思います。それゆえ演劇を続けるという選択は間違いだったと自分自身を納得させてくれるような、自分に都合の良い評判を探していたのだと感じました。

自発性に欠けている拓人

拓人は周りのことをよく見ていて細かいところまで分析することが得意ですが、これは周りの人間の存在があってこそ、意味がある特技であって、拓人自身をアピールできるような特技ではないと言えます。インターンシップや海外留学の経験を活かそうとする理香や、就職活動に積極的でないものの自分自身の道を生きていこうとする隆良と比べて、自発性や積極性に欠けていると感じました。

まとめ

拓人だけでなく、その就活仲間で、自分に自信がなく控えめな瑞月、プライドが高くてインターンシップや海外での経験などの肩書きを持つ意識高い系の理香、あまり周りの目を気にせず楽観的な光太郎、自分の道で生きていきたいと言って就職活動をしようとしない隆良が主な登場人物として出てきます。

いろんな欠点をかかえた学生が出てきて、きっとみなさんの身近な人にもそれぞれ当てはまる人がいるのではないでしょうか。話の最後までは主人公の目線から物語を見ることで、安心して観察者でいられます。しかし最後の場面、主人公がSNSの裏アカウントで他の就活仲間の悪口を言っているのがバレて理香にダメ出しされる場面では、自分も痛いところを突かれているようで、リアリティがありました。

登場人物に自分も当てはまるところがありますし、自分も批判されているようにも感じられて、なかなかにショックな内容となっていますが、SNSなどのおかげで人間関係が複雑に絡み合っている若い人にこそ、ためになる小説のうちの1つだと自身をもって言えます!

https://www.amazon.co.jp/何者-朝井-リョウ/dp/4103330619